島崎
地域の人が集まって、米を研いだり野菜を洗ったり、洗濯をした湧水が島崎にあると聞いて行ってみた。しかも現役だという。
かつて「晒し場」と呼ばれていたその場所は、現在では「延命水」と呼ばれているようだ。観光名所「三賢堂」の前だと聞いてきたのだが、それらしい湧水は見当たらない。
「三賢堂」の門が開いていたので入ってみる。
左手に立派な日本家屋がある。が、人の気配はない。こういう場所では入場料を取られそうなものだがと、声掛けしてみるが、無人である。
背後の石段に「三賢堂」の小さな看板があるのに気付いた。登っていくと、コンクリート造りの円筒形の建物がある。
初見の印象は「納骨堂かな…」。
金属製の、大きくて重い扉は閉まっていたが、しかし、他にそれらしい建物もないので試しに引っぱってみると開いたので、声掛けしてみるが、やはり誰もいない。
天井は丸く、高い。床は寄木細工で飴色に光り、大きな2本の円柱が黒く光るタイルで飾られている。2階へはらせん階段が続き、電燈はアンティーク、案外と素敵なところである。
正面奥に3つの扉があり、開けると中には三賢堂の三賢人、菊池武時、加藤清正、細川重賢の木彫がある。扉を開けた途端、ふわりとなんとも奥床しい香が漂う。
おそらく香木で作られている。惚れ惚れと見入っていると、
「何をしているんですかっ!」
犬を連れた女性に怒られてしまった。
聞けば、事前に熊本市役所の文化財課に連絡して予約しないと見学できないという話。今日はたまたま清掃の業者が入ったので鍵を開けていたとのことであった。
「それはラッキーでした」と言うと、苦笑いされていた。
「晒し場」の情報を聞くと、ここの斜め前だと言う。
見当たらなかったが、と首を傾げると、連れて行ってくれた。
門を出てすぐの道に、石を組んだ水路がある。
「えっ、ここですか?(排水溝かと思った…)」
水がどんよりと溜まっているだけで、とても湧水には見えない。
が、これが湧水だと女性は胸を張って言う。
これを飲むのかとおそるおそる聞くと、
今は飲んでいないという。
「以前は透明で、コーヒーを淹れるととても美味しかったものだけどね…」
「熊本地震の影響で濁ったんですか?」
「いえ、地震のあとも綺麗な水だったけど、2年ほど前に道路で下水道工事があって、それ以来。今でも週に1度は清掃活動をしているけど、水質が戻らなくて」
粗雑な工事もあったものである。地元の人は市を訴えないのだろうか。
実際、三賢堂の向かいは道路を挟んで川が流れているのだが、その川を流れる水は(水量は多くないものの)澄んでいる。川に掛かる橋を渡ると、山側で、山肌から流れ出る水が小さな泉を作っており、こちらの水は(飲めるのかどうかわからないが)濁ってはいなかった。「少年の家跡地湧水池」の看板があった。