熊本の水の話

坪井川周辺ほか、熊本の水源を散歩します

熊本の水源を歩く

次々と干上がっていく水源地。その変遷を歩きます

坪井川源流

 熊本市中心部を縦断して流れる坪井川

 白川や緑川に比べると、熊本市民にすらあまり知られていない。

 

 だが、熊本市の北、植木町と改寄(あらき)町の境界あたりに端を発し、八景水谷から熊本城、さらに有明海へと、熊本市中心部を北から南へと流れていく(熊本市にとっては)主要な河川だ。

 

 その昔は豊富な湧き水があり、川底の綺麗な砂が動いているのが観測できた坪井川

 現在では、市の下水道を処理した水の放出先になっている。いや、熊本市のみならず、市を越境した菊陽町(の工場群)の下水処理水までも引き受けている。

 そのため、川面には白い泡がプカプカ浮かび、見るからに汚らしい。透明度も下がった。

 川の水(放出される下水の処理水を除いた、もともとの川の水)が減少する真夏には、悪臭漂う日もある。

 もともとの川の水は年々減少し、今やこの川を流れる水の半分かそれ以上が下水の処理水であると目されている。

 

 熊本北部浄化センターの下水処理水の放出路となっていることは、以前、少し書かせてもらった。

water-kumamoto.hatenadiary.com

 

 ネットで坪井川を調べると、熊本県熊本市を流れ有明海に注ぐ二級河川として、以下のリンクのように説明されている。

 

 Wikipediaの説明は、坪井川の記述として不十分極まりないのだが(とくに改修部分。昭和の改修なんて、もっと大規模で重要なものがあったろう!と言いたい)、、、。

さらに問題なのは、熊本北部浄化センターの件は、欠片も載っていないことだ。

(よく見たら「周辺の施設」の項目に、ちょろっと名前だけ載っている)

 

 ちなみに、処理水を坪井川に1日6万t以上放出している(そして、その中に菊陽町セミコンテクノパークなどの排水が含まれている)ことは欠片も出てこないし、熊本北部浄化センターのHPにも載っていない。

 不誠実だなと思う。

 

mizu.cleans.jp

 

 川底からもあちこちに湧水があり、本来は美しい川である坪井川なのに、この浄化センターの処理水が大量に流入しているが故に、せっかく下水道整備が整っても、汚れていく一方の坪井川だ。

 

 では、浄化センターより上流の様子はどうなのだろう?

 処理水が流入する前の川は、以前と同じく美しく保たれているのだろうか?

 そもそも源流はどこなのだ?

 一度、源流を見てみようと思った。

 

 熊本市の公式HPによると、改寄町(あらきまち)にある「水口(みずぐち)」という場所らしい。

www.city.kumamoto.jp

 

 八景水谷公園から坪井川に沿って、車を北へ走らせていく。

 坪井川HIヒロセのあたりで飛田バイパスの下を通り、ゴルフ練習場の脇を通って熊本北部浄化センターの方へ流れていく。

 浄化センターの脇を過ぎると、川幅はぐっと狭まり、そのうちにまるで用水路のような小さな川になる。

 田の中を縫うように流れているので、川筋をナビで確認しながら車で走らせていく。

 

 「水口」の場所は、九州自動車道北熊本ICに近い。

 立石区公民館(熊本県熊本市北区改寄町1690−1)のちょうど裏あたりのようだ。公民館に車を停めさせてもらって歩くことにする。

 

 民家とビニールハウスの間の細い道を歩くと、左手に下っていく坂道がある。

 この坂を下って左手に、「立石大神宮」という古びてはいるが由緒ありげな神社があり、さらにずっと下っていくと水源池とされる「水口」がある。

 残念だが、湧水地とはいうものの、水はほとんど湧いている気配はなく、池は澱んでいる。

f:id:white-giraffe:20220326203958j:plain

坪井川源流とされる池

 池の周辺は水路で囲まれ、池には木道を渡るのだが、池同様にどんよりとさびれた雰囲気はは否めない。熊本市が立てた「熊本水遺産」の標柱だけが、ここが水源であることを示している。

 

f:id:white-giraffe:20220326204413j:plain

水源の周囲は水路で囲まれていた。右端が「水遺産」の標柱

 

 …しかし、納得がいかない。

 湧いていない川の水がなぜ流れているのか。しかも、周囲に巡らせた用水路状の川筋はまだ先へと続いていて、水が流れてくる。

 流れてくる水を遡って、道を戻っていくと、近隣の人らしい女性に出会う。

 

坪井川の源流を知りませんか?」

 

 それなら…と案内してくれたのは、先ほど通った立石大神宮の裏手だ。そこにわずかだが水が流れており、さらに道路の下をくぐって用水路のように三方を固められた水路が続いていた。

 

「ここですか?」

 

「昔はもっと水が流れていて、このあたりでセリなんかも摘めたんだけど…」

「40年ぐらいも前かなあ、水路にする工事をしてね。それから間もなくして水量が減って。ホタルもいなくなってしまって」

「湧水口はその土手の下あたりだったけど。もう全然水はないわね」

f:id:white-giraffe:20220326205945j:plain

かつて坪井川源流が流れていた場所

 

 写真に写っているパイプのあたりから水がチョロチョロ流れていたので、

「これは山から染み出ている水ですか」

と聞いてみる。

「あ、それはそこの民家の生活排水」

「エッ!」

 確かに少し臭うかも?

 そういえば、熊本市の下水道普及率は令和元年度で89.9%だったのであった。

 

 なぜ坪井川は大切にされないのだろう。

 かつての水源から土手の上を眺めると、無数のビニールハウスが並んでいるのだった。

 これらは多くがスイカのビニールハウスというが…

 

 全国的に有名になった植木スイカ。この水源周辺の植木町では、ほかにも多様な農産物を作っている。

 

 一方で、植木町と言えば、日本三大地下水汚染地帯の1つと数えられている。このことを、熊本の人はほとんど知らない。

 植木では、豊富(だった)水資源をジャンジャン使って、生産量を上げるために農薬をバンバン使い、地下に染み込んだ水は汚染されていった、ということだろうか…。

 

 そして下流八景水谷は干上がり、状況を知っている役人は、どうせ汚れていると坪井川を下水の処理に使い、さらに環境はどんどん汚れていく…。

 

 そういう負のサイクルが生まれているのではないだろうか…。