熊本の地下水汚染1
「熊本の水は地下水だから美味しい!」
これは真実だろうか。
川から水を取って、それを濾過して水道水としている自治体に比べたら、それはそうかもしれないと思う。
昔、水道水に発がん性物質「トリハロメタン」が混じっていると話題になったが、これは川の水を濾過して残った有機物に、殺菌するために加えた塩素が反応して出来るものである。加える塩素の量が多いとトリハロメタンも増えるので、最低限の殺菌しか必要でない地下水は、こういった心配は少ないことになる。
問題は「汚染」だ。地下には綺麗な水だけが流れているのかといえば、そうではない。
熊本でも他の地域と同様に、昭和50年代から地下水汚染が増えてきた。
私がこの事実に気が付いたのは、地下水に関する本を読んでいて、「熊本の植木町は日本三大地下水汚染地域の1つ」という一文を見つけたからだ。
植木町と言えば、全国的に有名なスイカの名産地。スイカのほか、キュウリやピーマン、アスパラ、トマトなど、多くの農産物も栽培している。
以前、坪井川の水源を探して遡った時、かつての水源があった周辺には、無数のビニールハウスが立ち並んでいた。
あれがスイカのビニールハウスだ。
植木町の地下水汚染は、主に硝酸性窒素によるもので、これは畑地への過剰な肥料、及び家畜排せつ物の不適切な処理が原因で起こる。
昭和50年頃、坪井川源流に用水路が整備され、源流付近の水はたちまちに枯れた。用水路を整備したのは大規模な開発が予定されたため、つまりスイカ農業のためだろう。
スイカの栽培には大量の水と農薬、化学肥料が必要だ。
周辺には無数のビニールハウスが立ち並び、ホタルは飛ばなくなった。
また、坪井川源流のあたりは、以前は飽託郡北部町であった。NHKの番組で紹介された、猛毒の“枯葉剤”が不正に埋められている場所でもある。
坪井川源流付近に用水路が整備された頃、八景水谷水源の周辺でも洪水対策として坪井川の護岸工事がなされた。そして、護岸工事がなされたあと、2、3年のうちにホタルが激減したと記憶している。
坪井川の、八景水谷よりわずか上流に、熊本北部浄化センターが作られたのは平成元年のことだ。
浄化センターとは、つまり下水処理場。
この下水処理場は、平成12年ごろには1日9500tの下水を処理し、その処理水を坪井川に放出していた。
この頃、坪井川を流れる水の見た目はとても綺麗になった。それまで坪井川に直接流れ込んでいた生活排水や農業排水が、この下水処理場を経由するようになったからであろう。(ちなみに、坪井川源流がある改寄町のあたりは、いまだに下水道が整備されておらず、生活排水を各家庭から用水路に放出している。生活排水を直接河川に流すことは平成13年から禁止されているので、おそらく各家庭に浄化槽を設置し、それを通しているのだろうとは思うが…)
だが、熊本北部浄化センターの1日の下水処理量が3万400tを超える頃から、坪井川の川面に白い泡が大量に浮かびはじめた。
現在では、下水処理水の坪井川への放出量は1日に10万tを超えている。
驚くべきことに、熊本北部浄化センターは熊本市北部の下水を処理しているだけではなく、植木町や合志市、そして菊陽町のセミコンテクノパークの工業排水なども受け入れている。
熊本県で出しているパンフレットによると、処理水は安全で無害だと言うが、下水の処理方法は旧態依然とした汚泥沈殿法で、とくに近年不安視されている化学物質などの除去を行うような工程は見当たらない。
坪井川の川面に浮かぶ泡の正体は、沈殿池に含まれる微生物が出す糖類で、こちらは無害だが、処理水自体が無害だという保証はどこにもない。
そして、坪井川の河口は有明海である。有明海の主要産業はアサリだが、アサリの漁獲高は1980年代半ばから激減していく。
これら一連の経緯は相互に関連しているのではないだろうか。
八景水谷愛護会の老人たちはもう何十年も、八景水谷のホタル復活のために活動してきた。しかし、ホタルの幼虫を八景水谷の池に何百匹放流しようとも、ほとんど飛ばない。
東京の椿山荘で飛ぶホタルが、なぜ八景水谷で飛ばないのか、、、一度冷静に検証してみたほうがよいと思う。
坪井川の水に問題があるのではないかと言うと、「坪井川にはコイやフナもおるじゃなかか」と反論される。生き物が住める川だと言いたいのだろう。
しかし、コイやフナしか住めない川はC級河川で、決して綺麗とは言えない。
そして、川の水は水蒸気となって大気の中に混じり、人は呼吸によってそれを体内に取り込む。
川底から地下へ染み込む。